OPEN THEATER 2025「ドキュメンタリー/フィクションの彼方へ」 モフセン・マフマルバフ監督『パンと植木鉢』を巡って
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- 2025.10.15
イランの巨匠モフセン・マフマルバフ監督は、イラン・ニューウェーブを代表する映画作家のひとりとして、詩情とリアリズムを独自に融合させた作品を世界に送り出してきました。社会の周縁に生きる人々の視点を通して、日常のなかに潜む暴力や希望、夢と現実の狭間を描き出すそのまなざしは、常に観る者に新たな問いを投げかけます。
1996年の『パンと植木鉢(原題:Nun va Goldoon / A Moment of Innocence)』は、マフマルバフの代表作のひとつであり、彼自身の若き日の体験を再構成する、きわめて個人的でありながら普遍的な作品です。
若い頃に政治活動のなかで起こした事件と、そのとき傷つけた元警官との再会をきっかけに、当時の出来事を再現しようと試みる本作は、「記憶」「和解」「演じること」といったテーマを軽やかかつ深淵に掘り下げます。
ドキュメンタリーとフィクションの境界を溶かしながら展開するその語りは、映画というメディアそのものについての問いかけでもあります。
今回の上映会では、作品の上映後、マフマルバフ監督をオンラインでお招きし、創作の背景や映画制作への思想について直接お話しいただきます。
「ドキュメンタリー/フィクションの彼方へ」
モフセン・マフマルバフ監督『パンと植木鉢』を巡って
11月22日(土) 開催
15:00 | 開場・受付 |
15:30 | イントロダクション マフマルバフ監督「パンと植木鉢」とその時代について |
16:00 | 『パンと植木鉢』上映(78分) |
17:20 | 休憩(10分) |
17:30 | マフマルバフ監督を迎えてトーク (聞き手:諏訪敦彦、ショーレ・ゴルパリアン) |
18:45 | 終了 |
会場 | 横浜市中区本町4-44 東京藝術大学横浜キャンパス馬車道校舎3F(大視聴覚室) |
入場 | 無料 |
座席 | 自由(先着順) |
定員 | 100名 |
事前申込制 2025年10月22日(月)10:00~ 受付開始
申込フォームは10月22日(月)10:00頃に表示予定です
※16:00の上映開始後、防犯上の理由により入口を施錠いたします。途中からの参加は出来かねますので、お申し込みの際にはご注意ください。
『パンと植木鉢』
- 原題: Nun va Goldoon(英題:A Moment of Innocence)
- 邦題:『パンと植木鉢』
- 監督・脚本:モフセン・マフマルバフ(Mohsen Makhmalbaf)
- 製作国:イラン
- 製作年:1996年
- 上映時間:約78分
- 言語:ペルシア語(字幕付き上映)
『パンと植木鉢』は、イランの巨匠モフセン・マフマルバフが自身の若き日の実体験をもとに描いた、きわめて個人的でありながら普遍的な物語です。
17歳の頃、政治活動に関わっていたマフマルバフは、当時の政権と対立する中で起こした事件で逮捕・投獄されました。本作では、そのとき刺してしまった若い警官と20年ぶりに再会し、かつての事件を双方の視点から再現するという企画を立ち上げます。監督と元警官は、それぞれ自分の若き日の役を演じる青年たちをキャスティングし、当時の感情や状況を再構築していきます。
しかし、再現される出来事は次第に現実から離れ、俳優たちの想像力や監督の記憶の揺らぎが入り混じり、虚構と現実が交錯していきます。
その過程を通して浮かび上がるのは、過去の傷と和解の可能性、そして「演じること=映画をつくること」がもつ癒やしと変容の力です。
詩的でユーモラスな語り口と、ドキュメンタリーとフィクションの境界を軽やかに越える構成により、『パンと植木鉢』は世界各地の映画祭で絶賛され、マフマルバフの代表作として高く評価されています。
主な受賞・評価
- ロカルノ国際映画祭(1996)
- 青年審査員賞(Youth Jury Award)受賞
- 国際カトリック映画事務局賞(OCIC賞)受賞
- トリノ国際映画祭(1996)
- 国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞)受賞
- ナント三大陸映画祭(1996)
- グランプリ(金の気球賞)ノミネート
- ベルリン国際映画祭(1997)
- フォーラム部門正式出品
登壇者プロフィール
〈モフセン・マフマルバフ Mohsen Makhmalbaf〉
モフセン・マフマルバフは、イラン・ニューウェーブを代表する映画監督であり、作家、脚本家としても世界的に高く評価されています。1957年にテヘラン近郊で生まれ、若い頃から文学と政治に深い関心を持ち、十代で革命運動や政治活動に関わる中で逮捕・投獄された経験を持つ。この体験は後の映画表現に大きな影響を与え、個人的な記憶や社会的現実を題材にした作品群へとつながっていった。
マフマルバフは1979年のイラン革命後に映画制作を開始し、1980年代から1990年代にかけて、国際的な注目を集める数々の作品を生み出した。彼の作風は、社会の周縁で生きる人々の生活や苦悩を丁寧に描き出す一方で、詩的で象徴的な映像美と人間の内面への深い洞察が特徴である。また、ドキュメンタリー的手法とフィクションを融合させる実験的な手法を多くの作品で用い、映画そのものの語り方を問い直す試みを行ってきた。
代表作には、『サイクリスト』(1989)、『サラーム・シネマ』(1995)、『パンと植木鉢』(1996)、『カンダハール』(2001)などがあり、特に『パンと植木鉢』では、自身の若き日の体験を再構築し、過去の出来事と和解を描くことで、個人史と映画表現の境界を溶かす革新的な手法を提示した。これにより、国際映画祭での高い評価と受賞を重ね、イラン映画の新たな潮流を世界に知らしめた。
マフマルバフ監督はまた、映画教育や若手監督の育成にも力を注ぎ、自身の映画哲学を伝えるワークショップや講義を世界各地で行っている。
〈諏訪 敦彦 SUWA Nobuhiro〉
映画監督・東京藝術大学大学院映像研究科教授
1960年広島生まれ。テレビドキュメンタリーの演出を経て、97年初長編「2/デュオ」を発表。完成台本を用いない即興演出が話題となり、ロッテルダム国際映画祭NETPAC(最優秀アジア映画)賞受賞。99年「M/OTHER(マザー)」をカンヌ国際映画祭監督週間に出品し、国際批評家連盟賞を受賞。その他の主な作品に「H Story」「パリ・ジュテーム」(オムニバスの一編)「不完全なふたり」(ロカルノ国際映画祭審査員特別賞)「ユキとニナ」など。17年にジャン=ピエール・レオー主演の「ライオンは今夜死ぬ」を発表。昨年、「風の電話」が第70回ベルリン国際映画祭ジェネレーション14プラス部門で上映され、準グランプリに当たる国際審査員特別賞を受賞した。現在、是枝裕和監督らとともに日本映画界への提言を行う「日本版C N C設立を求める会」の中心メンバーとして活動している。

イラン生まれ、大学卒業後1979年初来日。1982年よりイラン大使館で大使秘書として勤務。1989年帰国後イランイスラム共和国放送で「北の国から」「はね駒」など日本作品を紹介、字幕翻訳を担当。1992年再来日し、NHKでの通訳の仕事を契機に日本でイラン映画に携わり始める。多くのイラン映画作者の作品を日本に紹介し、日本映画のイラン公開にも尽力する。近年は映画製作も手がけ主な作品は「アフガン零年」(2003/セディク・バルマク監督)、「CUT」(2011/アミル・ナデリ監督)、『ライク・サムワン・イン・ラブ』(2012/アッバス・キアロスタミ監督)「MAKI マキ」(2017/ナグメ・シルハン監督)、「ホテルニュームーン」(2019/筒井武文監督)など。
1994年12月 「そして映画はつづく」翻訳
2021年9月 「映画の旅びと」がみすず書房より出版される。
主催:東京藝術大学大学院映像研究科 横浜市にぎわいスポーツ文化局
問い合わせ先:東京藝術大学大学院映像研究科 geidaimovie@gmail.com / 050-5525-2681(公開講座担当)
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